「嬢ちゃん。どうした? 迷子か?」
 男は思わず話しかけていた。こんな所に薄着に裸足の小さな子供が一人座り込んでいることに疑問を覚えたこともあるが、何より、子供の存在に心が引き付けられていたからだ。
 ぱっちりした瞳は男の顔をじっと覗き込んでいたが、やがて顔を歪めてしまい今にも泣き出しそうな様子である。
「ああ、すまん。そりゃあ、いきなり知らないおじさんに話しかけられたら怖いよな」
 これは他人に見られたら通報されかねない、などと思いながら男は精一杯の作り笑いを浮かべ、頭を優しく撫でる。すると、今にも泣き出しそうだった顔は表情を綻ばせ、少女は男に抱き着いた。
「嬢ちゃん。お父さんとお母さん。何処にいるか分かるかい?」
 男はほっと胸を撫で下ろしながら、出来る限り優しげな口調で問いかけた。
「いない。わたし、おとーさんとおかーさんいないの」
「いない? そんなことはないだろう」
 しかし、少女は目で訴えながら、頑として首を振り続けた。その必死な様子に、男は少女の境遇を幾らか察し、やれやれとばかりに頭を掻き撫でた。
「面倒事が終わったところだってのに、また厄介なことに足を突っ込んじまったな、こりゃ」
「どーしたの?」
「いいや、何でもない。それより嬢ちゃん。いつまでもこんなとこいちゃ風邪引いちまう。どうだ、ウチに来ないか? 可愛げのない家だが、飯くらいは食わせてやれる」
 少女は男をじーと見つめる。そして何かを感じ取ったのか、「うん」と無邪気な笑顔を男に振りまいた。
「よし、決まりだ。下に車があるからそこまで行こう。ほれ」
 男は膝を付き、華奢な少女の体を背負う。
「ちゃんと肩に手を回して、そう、いい子だ」
 男は少女がしっかり掴まっているのを確認すると、ゆっくりと歩き始めた。
「……ん」
「どうした、おんぶはいやか?」
「ううん。とってもあったかい」
「そうか。それはよかった」

「嬢ちゃん。どうした? 迷子か?」
 男は思わず話しかけていた。こんな所に薄着に裸足の小さな子供が一人座り込んでいることに疑問を覚えたこともあるが、何より、子供の存在に心が引き付けられていたからだ。
 ぱっちりした瞳は男の顔をじっと覗き込んでいたが、やがて顔を歪めてしまい今にも泣き出しそうな様子である。
「ああ、すまん。そりゃあ、いきなり知らないおじさんに話しかけられたら怖いよな」
 これは他人に見られたら通報されかねない、などと思いながら男は精一杯の作り笑いを浮かべ、頭を優しく撫でる。すると、今にも泣き出しそうだった顔は表情を綻ばせ、少女は男に抱き着いた。
「嬢ちゃん。お父さんとお母さん。何処にいるか分かるかい?」
 男はほっと胸を撫で下ろしながら、出来る限り優しげな口調で問いかけた。
「いない。わたし、おとーさんとおかーさんいないの」
「いない? そんなことはないだろう」
 しかし、少女は目で訴えながら、頑として首を振り続けた。その必死な様子に、男は少女の境遇を幾らか察し、やれやれとばかりに頭を掻き撫でた。
「面倒事が終わったところだってのに、また厄介なことに足を突っ込んじまったな、こりゃ」
「どーしたの?」
「いいや、何でもない。それより嬢ちゃん。いつまでもこんなとこいちゃ風邪引いちまう。どうだ、ウチに来ないか? 可愛げのない家だが、飯くらいは食わせてやれる」
 少女は男をじーと見つめる。そして何かを感じ取ったのか、「うん」と無邪気な笑顔を男に振りまいた。
「よし、決まりだ。下に車があるからそこまで行こう。ほれ」
 男は膝を付き、華奢な少女の体を背負う。
「ちゃんと肩に手を回して、そう、いい子だ」
 男は少女がしっかり掴まっているのを確認すると、ゆっくりと歩き始めた。
「……ん」
「どうした、おんぶはいやか?」
「ううん。とってもあったかい」
「そうか。それはよかった」

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