雲で月が陰っている。地方都市である菅原市の港湾地区にある駐車場、そこに人だかりが出来ていた。
「あり得ねえ。一体何がぶつかったらこんな風にぶっ壊れるんだ」
 "立入禁止"と書かれた黄色のテープの手前、駐車場の一角を覗き込んだ坂上は思わず呟いた。
 坂上の視線の先にあるのは、まるで上から象でも落ちてきたかのように無残に潰れてしまった車であった。現在、哀れな車の周りには青、あるいは紺色の服装に身を包んだ警官達による調査が行われていた。
 徐々に人だかりが減っていったのを見計らい、坂上は手持ち無沙汰になっていた見張りと思しき警官の一人に声をかける。
「おいあんた、こいつは何があったんだ」
 まだ顔立ちに幼さの残る警官は、その少しくたびれた男を見るなり手で制した。
「すみません。関係ない人に内容を話すわけには」
「いいやそれなら心配ない。俺も関係者だ」
 坂上は羽織っていたジャケットの内ポケットから手帳を取り出す。それを見た警官は目を見開いて途端に姿勢を正した。
「し、失礼しました! あの、この度はどのような用件でこちらに?」
「いや、今は非番だよ。たまたま通りかかっただけだ。それより、これは一体全体何が起きたんだ」
「はい、それがまだよく分かっていないんです。幸い車の所有者は無事だったのですが、原因の方はさっぱりで、鉄球でも落ちてきたんじゃないかって結論に落ち着きつつあります」
「鉄球って、んなもん何処にそんな痕跡があるんだ」
「この位置からじゃ見えにくいんですが、車から数メートル離れた地面に窪みが出来ているんです。入りますか?」
 警官がテープを上に上げようとするのを男は手で制した。
「いや、いい。さっきも言ったが非番だ。人の仕事を奪うつもりもないしな。じゃあ、その鉄球ってのも、そこら辺にあるのか」
「いえ、それがまだ捜索中で」
「なんだ、それじゃ鉄球って線は薄いんじゃないか」
「そうとも言い切れないですよ。私の推論なのですが、ここは海に面してますし沈んでしまったのなら納得がいきます。おっと、申し訳ありません。お呼ばれのようですので、ここで失礼いたします」
 警官は近くにいた別の警官に呼ばれてその場を後にする。
 まさか、鉄球が沈んだなんて可能性も低いだろう。そう男は思った。それなら落下地点から海に至るまでの痕跡もあるだろうし、真っ先にその可能性を探る筈だ。それがないということは。

 雲で月が陰っている。地方都市である菅原市の港湾地区にある駐車場、そこに人だかりが出来ていた。
「あり得ねえ。一体何がぶつかったらこんな風にぶっ壊れるんだ」
 "立入禁止"と書かれた黄色のテープの手前、駐車場の一角を覗き込んだ坂上は思わず呟いた。
 坂上の視線の先にあるのは、まるで上から象でも落ちてきたかのように無残に潰れてしまった車であった。現在、哀れな車の周りには青、あるいは紺色の服装に身を包んだ警官達による調査が行われていた。
 徐々に人だかりが減っていったのを見計らい、坂上は手持ち無沙汰になっていた見張りと思しき警官の一人に声をかける。
「おいあんた、こいつは何があったんだ」
 まだ顔立ちに幼さの残る警官は、その少しくたびれた男を見るなり手で制した。
「すみません。関係ない人に内容を話すわけには」
「いいやそれなら心配ない。俺も関係者だ」
 坂上は羽織っていたジャケットの内ポケットから手帳を取り出す。それを見た警官は目を見開いて途端に姿勢を正した。
「し、失礼しました! あの、この度はどのような用件でこちらに?」
「いや、今は非番だよ。たまたま通りかかっただけだ。それより、これは一体全体何が起きたんだ」
「はい、それがまだよく分かっていないんです。幸い車の所有者は無事だったのですが、原因の方はさっぱりで、鉄球でも落ちてきたんじゃないかって結論に落ち着きつつあります」
「鉄球って、んなもん何処にそんな痕跡があるんだ」
「この位置からじゃ見えにくいんですが、車から数メートル離れた地面に窪みが出来ているんです。入りますか?」
 警官がテープを上に上げようとするのを男は手で制した。
「いや、いい。さっきも言ったが非番だ。人の仕事を奪うつもりもないしな。じゃあ、その鉄球ってのも、そこら辺にあるのか」
「いえ、それがまだ捜索中で」
「なんだ、それじゃ鉄球って線は薄いんじゃないか」
「そうとも言い切れないですよ。私の推論なのですが、ここは海に面してますし沈んでしまったのなら納得がいきます。おっと、申し訳ありません。お呼ばれのようですので、ここで失礼いたします」
 警官は近くにいた別の警官に呼ばれてその場を後にする。
 まさか、鉄球が沈んだなんて可能性も低いだろう。そう男は思った。それなら落下地点から海に至るまでの痕跡もあるだろうし、真っ先にその可能性を探る筈だ。それがないということは。

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