菅原市のポートシティ記念公園は沿岸沿いにある公園である。この公園は菅原市の開港百年を記念して設けられたものであり、近くには巷で流行の飲食店やショップなどの商業施設が軒を連ねていた。
「来てみたはいいけど、相変わらずここは賑やかだな」
 太は記念公園に来るなり、ぽつとそう漏らした。辺りは休日ということもあってか多くの人が行き交っており、時折家族の仲睦まじそうな声も聞こえてくる。
 これだけ活気のある場所に来ていたのは調査の一環で、やはりこの近辺で不可解な現象が起きていたからである。正確にはまだ事件、ともいえないそれは、一言でいえば大きな傷痕であった。記念公園の人気のない場所、複合商業施設の裏に隠れるようにそれはあり、まるで巨大な爪にでも抉られたかのように地面に大きなくぼみが出来ていた。おそらく深夜に出来たのであろうそれは地盤沈下によるものかとも言われているが、未だ推測の域を出ず、依然調査が続いている。
 太と弓納はその事件の現場に出向くことによって何らかの手がかりを見つけようとしていた。手がかり、というのは近年起きている一連の不可思議な出来事、ひいては生野を悩ませている不可解な現象との関連性につながるものである。
「とても平和ですね。大変良いことです」
 太のすぐ後ろを歩いていた弓納は言った。遠くを見上げれば、積雲がまばらに空に浮かんでおり、その間を鳥の群れが飛んでいる。
「市民の休日って言ったところだね。ああ、僕も陽の当たる生活をしないと」
「太さん、陽の当たらない生活とはどのようなものなのでしょうか?」
「あれ、そこ食いついてしまうとこだった?」
「はい、そこはかとなく気になります」
「まあ話す程のことじゃないんだけどね。普段、物書きしている時間が多いものだから日中も室内にいることが多いんだ。そして何より夜型だから、夜に活動が活発になり、朝は低血圧も相まって動きが鈍る」
「夜型とは、妖怪みたいですね」
「はは、その感想は初めてもらった。でもそうかもね、僕みたいな人間が妖怪になったりするのかも」
 太一は笑いながら言ったが、内心少しひんやりともした。本当に妖怪になってしまったら、やはり、終いには退治されてしまうのだろうか? そこまで考えて太は自分の考えを振り払った。良い妖怪だっているのだろうから、即退治というわけではないだろう。流石にそれは理不尽に過ぎる。
「そういえば、弓納さんは何故客士に?」
「うーん、これといって特別な理由はないです。昔からそういうことを生業にしていた家、といいますか一族に生まれた者ですから、自然な流れで入ったといいますか。例えるなら、習い事やアルバイト、部活動のような感覚です」
 お小遣いも入りますし、特に不満もないですよ、弓納はそう付け加えた。
「そうなんだ。でもその一族って気になるな。一体どういう家系?」
「あまり私も知らないのですが、今ではもう名前も伝わっていない民の末裔なんだそうです。どこかの古文書では、尾の生えた人なんて書かれてたとか」
「尾の生えた人……?」
「はい。でも私、尾は生えてないですよ」
「きっと装飾用の類を見間違えたんだろうね。じゃないと妖怪だ」
「なんだかいい加減です。よく分からないからとりあえず妖怪にされたんじゃたまったものじゃありません」
 そう毒づきつつも、弓納は可笑しそうに笑った。
 二人は目的の場所に向かいつつ、しばらく談笑に華を咲かせた。二人の学生生活で起きた珍妙なこと、ツチノコのような生き物の目撃談、天野が綺麗な和装の女性と二人歩いていたことなど、とりとめのない話が続く。

 菅原市のポートシティ記念公園は沿岸沿いにある公園である。この公園は菅原市の開港百年を記念して設けられたものであり、近くには巷で流行の飲食店やショップなどの商業施設が軒を連ねていた。
「来てみたはいいけど、相変わらずここは賑やかだな」
 太は記念公園に来るなり、ぽつとそう漏らした。辺りは休日ということもあってか多くの人が行き交っており、時折家族の仲睦まじそうな声も聞こえてくる。
 これだけ活気のある場所に来ていたのは調査の一環で、やはりこの近辺で不可解な現象が起きていたからである。正確にはまだ事件、ともいえないそれは、一言でいえば大きな傷痕であった。記念公園の人気のない場所、複合商業施設の裏に隠れるようにそれはあり、まるで巨大な爪にでも抉られたかのように地面に大きなくぼみが出来ていた。おそらく深夜に出来たのであろうそれは地盤沈下によるものかとも言われているが、未だ推測の域を出ず、依然調査が続いている。
 太と弓納はその事件の現場に出向くことによって何らかの手がかりを見つけようとしていた。手がかり、というのは近年起きている一連の不可思議な出来事、ひいては生野を悩ませている不可解な現象との関連性につながるものである。
「とても平和ですね。大変良いことです」
 太のすぐ後ろを歩いていた弓納は言った。遠くを見上げれば、積雲がまばらに空に浮かんでおり、その間を鳥の群れが飛んでいる。
「市民の休日って言ったところだね。ああ、僕も陽の当たる生活をしないと」
「太さん、陽の当たらない生活とはどのようなものなのでしょうか?」
「あれ、そこ食いついてしまうとこだった?」
「はい、そこはかとなく気になります」
「まあ話す程のことじゃないんだけどね。普段、物書きしている時間が多いものだから日中も室内にいることが多いんだ。そして何より夜型だから、夜に活動が活発になり、朝は低血圧も相まって動きが鈍る」
「夜型とは、妖怪みたいですね」
「はは、その感想は初めてもらった。でもそうかもね、僕みたいな人間が妖怪になったりするのかも」
 太一は笑いながら言ったが、内心少しひんやりともした。本当に妖怪になってしまったら、やはり、終いには退治されてしまうのだろうか? そこまで考えて太は自分の考えを振り払った。良い妖怪だっているのだろうから、即退治というわけではないだろう。流石にそれは理不尽に過ぎる。
「そういえば、弓納さんは何故客士に?」
「うーん、これといって特別な理由はないです。昔からそういうことを生業にしていた家、といいますか一族に生まれた者ですから、自然な流れで入ったといいますか。例えるなら、習い事やアルバイト、部活動のような感覚です」
 お小遣いも入りますし、特に不満もないですよ、弓納はそう付け加えた。
「そうなんだ。でもその一族って気になるな。一体どういう家系?」
「あまり私も知らないのですが、今ではもう名前も伝わっていない民の末裔なんだそうです。どこかの古文書では、尾の生えた人なんて書かれてたとか」
「尾の生えた人……?」
「はい。でも私、尾は生えてないですよ」
「きっと装飾用の類を見間違えたんだろうね。じゃないと妖怪だ」
「なんだかいい加減です。よく分からないからとりあえず妖怪にされたんじゃたまったものじゃありません」
 そう毒づきつつも、弓納は可笑しそうに笑った。
 二人は目的の場所に向かいつつ、しばらく談笑に華を咲かせた。二人の学生生活で起きた珍妙なこと、ツチノコのような生き物の目撃談、天野が綺麗な和装の女性と二人歩いていたことなど、とりとめのない話が続く。

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