「では、その正体はやはり大鯰であったと」
 生野は望月と太に言った。この前と異なり、客間には生野と望月、太以外に先日二人を出迎えた女が控えていた。信太(しのだ)という名の彼女は目を伏せて置物のように立っているが、相変わらず瀟洒な雰囲気をあたりに醸し出していた。
「ええ、おっしゃる通りだったみたいです」
「そうですか。ではあの言い伝えは真実ではなかったというわけだ」
「たまたま結末の記述のみが事実と異なっているという話はままあることですよ。古典作品を脚色する際はそれが顕著ですし……あ、すいません。これは創作の話です」
 太は赤面して俯く。
「いや構わんよ。むしろ先祖の失態を良心的に解釈してくれようとしたことに感謝だ」
「そう言われると助かります」
「さて、この件について、未だ確証の域を出ないのですが、どうやら誰かが裏で手を引いていたようです」
「ふうむ、このままではまた同じ事が起きる可能性があるということか」
「そうですね。大鯰はないかもしれませんが、別の形で何かが起きる可能性はあります。誰か心当たりはないのでしょうか?」
「そうですなあ。こんな事を言ってはなんですが、私は代々の当主の中でも軟弱者でしたので、なるべく当たり障りのないように事に当たってきたつもりです」
「お言葉ですが、生野さん。例え貴方が努めて人に誠実に接していたところで立場というものがございます。貴方個人に恨みはなくても、生野家当主には恨みを持っている人はいるかもしれません」
「……なるほど。そこまでいくと、ちらほら思い当たる節があります。やれやれ、どうしたものか」
 下を向いて考え込んでいた生野はハッとして顔をあげる。
「申し訳ありません。ここからは人と人との問題、私の問題ですのでお気になさらぬよう。ああ、信太さん。もう下がっていい。お見送りは私がしよう」
 お礼は後ほど、そう言って生野は二人を送り出すために客間のドアを開けた。

「では、その正体はやはり大鯰であったと」
 生野は望月と太に言った。この前と異なり、客間には生野と望月、太以外に先日二人を出迎えた女が控えていた。信太(しのだ)という名の彼女は目を伏せて置物のように立っているが、相変わらず瀟洒な雰囲気をあたりに醸し出していた。
「ええ、おっしゃる通りだったみたいです」
「そうですか。ではあの言い伝えは真実ではなかったというわけだ」
「たまたま結末の記述のみが事実と異なっているという話はままあることですよ。古典作品を脚色する際はそれが顕著ですし……あ、すいません。これは創作の話です」
 太は赤面して俯く。
「いや構わんよ。むしろ先祖の失態を良心的に解釈してくれようとしたことに感謝だ」
「そう言われると助かります」
「さて、この件について、未だ確証の域を出ないのですが、どうやら誰かが裏で手を引いていたようです」
「ふうむ、このままではまた同じ事が起きる可能性があるということか」
「そうですね。大鯰はないかもしれませんが、別の形で何かが起きる可能性はあります。誰か心当たりはないのでしょうか?」
「そうですなあ。こんな事を言ってはなんですが、私は代々の当主の中でも軟弱者でしたので、なるべく当たり障りのないように事に当たってきたつもりです」
「お言葉ですが、生野さん。例え貴方が努めて人に誠実に接していたところで立場というものがございます。貴方個人に恨みはなくても、生野家当主には恨みを持っている人はいるかもしれません」
「……なるほど。そこまでいくと、ちらほら思い当たる節があります。やれやれ、どうしたものか」
 下を向いて考え込んでいた生野はハッとして顔をあげる。
「申し訳ありません。ここからは人と人との問題、私の問題ですのでお気になさらぬよう。ああ、信太さん。もう下がっていい。お見送りは私がしよう」
 お礼は後ほど、そう言って生野は二人を送り出すために客間のドアを開けた。

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