「毎度玄関が遠いのはどうかご容赦ください。今更ながらこんな難儀な作りにしてしまったのは間違いだと痛感しているところです」
 客間から玄関に行く途上、生野は申し訳なさそうに言った。
「いえ、大した問題ではありませんので、お気になさらずに。それより最近、市内に不可思議な事件が多発しているのをご存知でしょうか?」
「ええ、小耳程度には挟んでおります。それがどうかなさいましたか?」
「いえ、大したことではないのですが、少し気になることがありましたので。例えば記念公園の件。あそこには今も地面に大きな爪痕のようなものが残っているようですが、それはどうやら人間や動物の仕業ではないとの専らの噂です」
「ふむ、確かにあのような傷痕は動物では付けられまい。人がやるにしても、大掛かりな仕掛けがなければ困難でしょう」
「実は別の者が別件であそこを調査しておりまして」
「なるほど。その傷痕も異界の住人とやらの仕業という可能性があるわけですか。いいや、むしろそう考えた方が自然ですな」
「ええ。ですが、その調査の途中に邪魔が入ったんです。何でも、彼らによるとスーツを着た奇妙な男に襲われたとか」
 玄関まで来た所で生野は足を止める。しかし、振り返ることはせずに望月に尋ねる。
「ほほう。しかしその男の目的は一体何なのでしょうなあ」
「さて、何が目的だったのかは分かりませんが、一つ、面白いことを言っていたそうです」
「はて、それは?」
「君達には用がある、そう男は言っていたそうです」
「ふむ。それはまた、まるで監視していたかのようだ」
 太はそれとなく生野を見る。後ろからははっきりと見えなかったが、生野は顎をさすっているようであった。
「その男はどうされました?」
「ええ、その男は何とか撃退しました。思えば男は只の変質者だったのかもしれません。調査をした者はまだうら若き青年と少女でしたので、下世話な話ですが自分の性癖に合致した男が目を付けていたということもあり得るでしょう」
「それはまた災難ですな」
「そうですね。あまり気持ちのいいことではないことは確かです。ですが、面白いのはここからですわ、生野さん」
「……というと?」
「青年少女は実に勇敢でして、撃退した男に密かに発信機を付けていたのです。その男は何処に逃げ帰ったと思います?」
「はて? 変質者のねぐらなぞ、皆目見当がつきませなんだ」

「毎度玄関が遠いのはどうかご容赦ください。今更ながらこんな難儀な作りにしてしまったのは間違いだと痛感しているところです」
 客間から玄関に行く途上、生野は申し訳なさそうに言った。
「いえ、大した問題ではありませんので、お気になさらずに。それより最近、市内に不可思議な事件が多発しているのをご存知でしょうか?」
「ええ、小耳程度には挟んでおります。それがどうかなさいましたか?」
「いえ、大したことではないのですが、少し気になることがありましたので。例えば記念公園の件。あそこには今も地面に大きな爪痕のようなものが残っているようですが、それはどうやら人間や動物の仕業ではないとの専らの噂です」
「ふむ、確かにあのような傷痕は動物では付けられまい。人がやるにしても、大掛かりな仕掛けがなければ困難でしょう」
「実は別の者が別件であそこを調査しておりまして」
「なるほど。その傷痕も異界の住人とやらの仕業という可能性があるわけですか。いいや、むしろそう考えた方が自然ですな」
「ええ。ですが、その調査の途中に邪魔が入ったんです。何でも、彼らによるとスーツを着た奇妙な男に襲われたとか」
 玄関まで来た所で生野は足を止める。しかし、振り返ることはせずに望月に尋ねる。
「ほほう。しかしその男の目的は一体何なのでしょうなあ」
「さて、何が目的だったのかは分かりませんが、一つ、面白いことを言っていたそうです」
「はて、それは?」
「君達には用がある、そう男は言っていたそうです」
「ふむ。それはまた、まるで監視していたかのようだ」
 太はそれとなく生野を見る。後ろからははっきりと見えなかったが、生野は顎をさすっているようであった。
「その男はどうされました?」
「ええ、その男は何とか撃退しました。思えば男は只の変質者だったのかもしれません。調査をした者はまだうら若き青年と少女でしたので、下世話な話ですが自分の性癖に合致した男が目を付けていたということもあり得るでしょう」
「それはまた災難ですな」
「そうですね。あまり気持ちのいいことではないことは確かです。ですが、面白いのはここからですわ、生野さん」
「……というと?」
「青年少女は実に勇敢でして、撃退した男に密かに発信機を付けていたのです。その男は何処に逃げ帰ったと思います?」
「はて? 変質者のねぐらなぞ、皆目見当がつきませなんだ」

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