神祓い 一章:少女

「駄目ねえ。目ぼしい情報が手に入らないわ」
 石壁に沿った、アスファルトで舗装された道。望月は夕暮れに照らされる地図に目を落としながらため息をつく。役場を出た後、望月と太は村を歩き回って情報収集をしていたが、これといって核心をつくような情報は出てこなかった。
「なんだか皆さん、何かを知っているような雰囲気は感じましたが」
「ええ、何人かは教えてくれそうだったのに、急に何かを思い出したかのように口をつぐんでしまったわね。私達何か気に障るようなことでもしたかしら?」
「いえ、そんなことはないと思います。ううむ、そうですね。ここは一計を案じて、子供に聞いてみるというのはどうでしょう?」
 太のその提案に望月は首を振る。
「実はね、太君が見ていない間にもう何人かの子に聞いているのよ。でも、子供は何も知らないようね」
「いつの間に……」
 太はそこまで言って少し考え込む。そして、何か納得したかのように顔を上げた。
「つまり神隠しというのは、大人になって初めて共有される村の秘密、ということでしょうか?」
「一理あるというか、おそらくそうでしょうね。秘密を共有する資格があるのは大人になったものだけ。子供はまだ分別のつかない子もいるから、蚊帳の外というわけね」
「うっかり外の人に秘密を喋っちゃうかもしれませんしね」
 石壁の上のに立つ神社前まで来て望月は突然立ち止まった。階段を登った先にある境内の奥の方をじっと見上げる。
「太君」
「はい?」
「少しこっちの方あたってくるから、太君はここで待っていてくれないかしら」
 望月は地図の一角を指し示す。その場所は湖がある場所で、村から少し離れた場所にあった。
「少し離れていますね……大丈夫ですか?」
「心配してくれるのね、ありがとう。でも残念ながら全然大丈夫よ。太君こそ疲れているようだし、ちゃんと休憩を取りなさい」
「バレてましたか」
「もちろん、私を誰だと思っているの」
「さあ、未だに謎多き人です」
「このちんちくりんめ、言ってくれるわね」
 望月は呆れたように笑った。
「それじゃあ、行ってくるわね。あんまり戻ってこないようだったら先に宿に行ってて頂戴」