異界手帖 七章:鷹と蛇

 先日の騒ぎのためか、生野邸は一般客の受け入れを中止しており、今はその門を固く閉ざしていた。
「世間では色々噂になっているようだな」
 門の前に立った天野は横にいた望月に語りかける。
「仕方ないわよね。唐突な公開中止に加えて、報道機関にその理由もだんまりだもの」
「そういえば週刊誌なんぞに『だんまりしているのは当主が失踪したからだ』という記事もあったが、ま、実際に失踪しているわけだからその記事は大当たりってわけだ。どこのどなたか存じぬが、その慧眼に思わず頭を平服せずにはいられんよ」
「はいはい。さ、おしゃべりはここまでにして、入るわよ」
 客士達と日井の一行は周りに人がいないことを確認してから門を飛び越えて、内側に忍び込んだ。
「こちらです」
 日井に案内されて、一向は屋敷内の庭園を進んでいく。屋敷の正面玄関の脇を通ってなだらかな坂を登ると、見晴らしのいい場所にたどり着いた。そこは小高い丘になっており園内を見渡すことが出来る場所だった。奥の方に像の乗った台座が設置されている。
「展望台、ですか?」
 弓納は言うと、日井は頷き、徐に台座に近づいていく。
「ここです。この下に、地下へと通じる道があります」
 日井は天野を呼び寄せ、二人がかりで台座を移動させた。
「なるほどね。確かにこれはいかにもって感じの秘密の抜け穴ね」
 台座の下にあったのは螺旋階段。降っていくと中は空洞になっているようで、防空壕のような作りになっていた。奥の方に簡素な門が設けられいる。
「門、か」
「ええ。そこが離島へとつながっております」
 特に鍵も付けられていないようで、前に引くとあっけなく扉は一行の侵入を許した。扉の先は廊下になっているようで先が長く続いている。
「……屋敷からポートシティまで、どれくらいありましたっけ?」
 ふと、望月が尋ねる。
「さて、私はこの辺の地理に詳しくはない故、すぐには回答いたしかねます」
「望月さん。多分、四キロメートルあるかないか、くらいです」
「はあ。随分と、長い廊下ね」
 望月はため息をついた。