異界手帖 十一章:反魂の願い

「で、どうやって入るの」
 望月が固く閉ざされた門を触りながら誰にともなく言った。
「まさかこんな所で詰まるとはな」
「壊せないんでしょうか?」
「ううん、いけないことはないんだけど、壊しちゃう?」
「他に方法があるなら、それに従います」
「そうよねえー」
「というか望月、最初はどうするつもりだったんだ」
「門にも結界があるかもとは思ったけど、想定外も想定外。こっちはこんなに精巧だなんて。あの子、頭もいいのね。後、ちょっと捻くれてる」
「感心している場合じゃない、それと悪態をついている場合か。出鼻を挫かれてしまったじゃねえか」
 天野から呆れたように言われ、望月は眉に皺を寄せる。
「それなら天野君、貴方は何か打開策はないのかしら?」
「今のところない」
「ほら、ないんじゃない」
「なんだって」
 二人は門の前で睨み合い、その様子を見ていた弓納が呆れ返る。
「あの、お二人とも。子供じゃないんですから」
 弓納が二人の間に割って入ろうとすると、門がひとりでに開いた。三人は一斉に門の方を向く。
「……開いたわ」
「ああ、開いたな」
「開きましたね」
 門の先は長さ百メートル、幅は十メートルほどの木橋になっており、橋の外側に浮いた灯籠が薄っすらと明かりを放ち、木橋を照らしていた。
 橋を渡った先は寝殿造りを上にいくつか重ねたかのような建物がいくつかの区画に分かれて聳えており、それぞれは空中回廊で繋がっているようだった。
「これって、誘ってるのかしら」
「あるいは、お二人の諍いが見るに耐えなかったのかもしれません」
 弓納はひょいと 一足先に門の中に入っていった。
「こ、小梅ちゃん、ひょっとして怒ってる」
「いいえ、全然怒ってないです」
 振り向いた顔は満面の笑みである。望月と天野は一瞬ゾクッとした。
「望月」
「何、天野君」
「喧嘩はやめよう。大人気ない」
「そうね。その通りよ」
 望月と天野は弓納の後を追うように門の中に入っていった。
 橋を渡ると左手に緩やかな階段が伸びており、その先にようやく建物の中へと入る入口があった。
「出鱈目な造りしてるわね。これってどうやって作ったのかしら」
「ふむ、適当なことを言うと、腕のいい宮大工が我が儘なお姫様の無理難題を魔法の工法で叶えてやったんじゃないか」
「それはまた随分適当ね」
「案外、神様の力を借りてるのではないでしょうか?」
「神様のね……でも、神様を降ろしたのだとしても、こんなの出来るかしら。だって神様って、特殊な技術や力は提供してくれるけど、スペックまでは提供してくれないのよ。出力部分はあくまで呼び出した本人のものを使うだから」
 そう言って、望月は中に入っていった。