異界手帖 十三章:帰る場所

 ……その後、弓司庁の日井氏の捜査が始まったが、その行方はようとして知れず、一向にその手がかりを掴むことは出来なかった。彼はあるいは身を隠しているのかもしれないし、ひょっとすると、故郷である異界へとヒノコの神と一緒に還ったのかもしれない。

 『真統記』は客士の一人によって回収された。元々は私の持ち物ではあるということだが、その性質上鍵とそれは必要な時以外には同じところにあってはいけないという取り決めがあるため、然るべき場所に預けられることになった。その行方は私もようとして知らないが、回収した客士は信頼のおける者であるため、およそよからぬ者の手に渡ったということはないであろう。

 騒動の渦中の一人であった生野氏は無事である。理由は分からないが、結局日井氏に見逃されたようだ。ただ、黒髪の少女、やちたみたまきに付けられた傷も命に別状が出るものではないものの、完治にはもう少し時間がかかると言われている(ただし、病院に入院しているわけではないとのこと)。元々彼は鬼だということであるが、『真統記』を持っていないこと、それに伴い"鍵"に対する執着も失せていること、加えて元々人畜無害な存在であったため、もう客士の方から何かすることはないらしい。また、生野氏の給仕を務めていた信太氏については前と変わらず生野氏の元にいるとのことである。そして、生野氏の元にいた豊前翁は日井氏と裏で繋がっていたようだが、心底彼に心酔して付き従っていたわけではないようで、騒動以降にふらりと北宮神社に出没して弓納氏を心底閉口させていた。

 以上がことの顛末である。この世界に身を置く者からすれば、しばしば起きるであろう出来事の一つなのかもしれない。ただ、私にとっては大きな非日常であった。そしてこの非日常は、表の歴史には決して刻まれることはないのであろう。だからこそ、私はこのことをここに書き記し、そのことを密かに伝えていこうと思うのだ。

 そういえば、客士院にまた新しい依頼が入ることとなった。その依頼も一癖も二癖もありそうなものであるが、それだけにどういった展開を見せてくれるのか、心を躍らさずにはいられない。果たして、その案件は予想と反して平凡なものになるのか、それとも、裏に何か大事な真相が隠れているのか……