ロストミソロジー 三章:魔女と神社

「さやちゃん、ですか?」
 はっとするような薄い金の髪をした和服の女性、千方院八重千代は答えた。
「ええ、八重千代殿。もしかしたら何かご存知でないかと思い、このように尋ねた次第です」
 天野は言った。
 千方院家。市内の郊外にある閑静な住宅街である藤坂(ふじのさか)にこの屋敷はあった。当主は千方院八重千代、"優に千年を超える千方院家の設立者"であり、現当主であった。何故彼女がそれだけの時を永らえているのか、その理由は簡単である。
 千方院八重千代は人ではない。俗に言われる鬼の類であり、千方院家は鬼によって構成される者達の集まりであった。
「そうですね。確かに髪の白い子はいたことにはいますが、少なくとも千方院にはそのような名前の子はいなかったですね」
 頬に手を当てながら千方院は言った。
「やはりそうですか。もしかしたら、彼女が鬼ということもあるのかと思ったのですが」
「鬼である可能性がないとは言い切れないかもしれませんね。本来日本人に見られない白い髪や金髪、青い瞳などは、よくある鬼の特徴の一つです。そういえば昔の人がアメリカ人を見た時に鬼がやって来たと勘違いしたのもそれが原因でしたか。いえ、申し訳ありません。話がそれてしまいました」
「いえ、大丈夫です。なるほどね」
 やはり、さやは人の子ではないのかもしれない、と天野は思った。単純にあの白い髪は色素が欠乏しているだけでれっきとした人間、とも考えられなくはないが、それにしても人としての身元が一向に掴めない。望月は既にお手上げ状態に陥ってるし、こうなるとこうやって人でない者の可能性を考えるより他はないであろう。
「先生。折角ですので、家の者にもあたらせてみましょう。もしかしたら知り合いの者がいるかもしれません」
「あいや、申し訳ない」
「いいえ、以前助けていただきましたから。これくらいは全くもって構いませんよ」