鬼姫奇譚 三章:異常

「ねえ、弓納さん。貴方最近変わったことなかったかしら?」
「そういう日夏さんこそ、何か挙動がおかしくないですか?」
 放課後の元文芸部室。二人は息を合わせたように俯きそして勢い良く顔を上げた。
「ぜぇっっったいあいつの仕業に違いないわ。何を言ってるか分からないかもしれないけど、とりあえず聞いて。私ね、この前クラスの皆から弓納さんに見られてたんだけど」
「奇遇ですね。私は皆から日夏さんだと思われていました」
「やっぱり、貴方も同じことが起きてたのね」
「はい。だけど、予想外の方向から矛が飛んできましたね。教室での出来事といい、唐突に胸を突かれた気分です。胸を突かれた経験はありませんが」
「ほんとやりたい放題ね! 捕まえたら折檻してやるから覚えてなさいよ。それはそれとして、一体何がどうなってるのよもう……」
 試験の日から数日、弓納と日夏は様々の不可思議な出来事に出くわした。具体的には机の上に置いていた筆記用具その他諸々が授業中にいきなり消えてしまったり、バケツに注がれた水があり得ない曲線を描いていきなり降り掛かってきたり、教科書の文字が動き出したりである。息をつくしまもなかったのか、日夏は目に隈を作っていた。
「そういえば私達、数日前は入れ替わってたのかしらあれ?」
「それはないですね。鏡を見ましたが、間違いなく私でした。そして、日夏さんは日夏さんのままです。おそらく周りからはそういう風に見えるように催眠術みたいなものかけたのではないでしょうか?」
「皆に? そんなのアリ?」
「ですが今実際にそういうことが起きてますし」
「むう、確かにそうね。例の魔法陣もそういうのと関係あるのかしら」
「かもしれないですね。それにしても多芸です、魔法の本」
「そこヨイショしない。貴方被害者なのよ」
「そうでした、本当に困ります。このままじゃ学生生活に支障が」
「もう出てるわよ。ちなみにね、弓納さんはドジっ子だとか言われてたわよ」
「そんな、うっかりしてる人に見られるなんて心外です。これは一刻も早く解決しないと」
「貴方にとって問題はそこなのね……?」
 日夏は呆れた表情をする。
「でもどうするの? 弓納さんが待てって言ったんでしょう?」
「ううむ。そうですね」
 携帯の振動音が鳴った。弓納が懐から携帯を取り出して、通知内容を確認する。
「友達? あれ、貴方に見られてた間、もしかして私なんか変なことしちゃったかしら。寺山さんだっけ? あの子、凄く私というか弓納さんの心配してたし」
「いえ、これは例の知人です。ふむふむ。そういうわけですので、日夏さん。放課後は空いてますか?」
「はい?」
「反撃です。これまでの鬱憤を晴らしましょう」