プロローグ 第五章:窮追

―― 菅原大学。サークル部室

太「ふうむ」
宗像「どうした辛気臭い顔して」
太「宗像さん」
宗像「そう一人で悩んでいないで、誰かに相談したらどうだ。もちろん、俺でよければ相談に乗るが」
太「ありがとうございます。では宗像さん、お聞きしたいことがあるのですが」
宗像「おう、なんだ」
太「天野幸彦という先生について何かご存知ではないででしょうか」
太が尋ねると、宗像は考え込む。
宗像「ううむ、天野……ああ、思い出した。若いような歳をくってるようなあの先生のことか」
太「はい! 印象はともかく、その天野先生で間違いないと思います。最近、彼の素性について調べていまして」
宗像「そうだなー。うーん、というか、そもそもなんでそんなことしているんだ? お前は彼のファンなのか」
太「そんなわけないじゃないですか。僕はですね」
とはいうものの、先日のことを言うわけにもいかないし。別の言い訳を探してなんとか取り繕おうとする。
太「あーあれです。宗像さん先ほど『若いような歳をくってるような』と言っていましたよね。まさに、そのミステリアスな感じが気になったのです。きっとあの人には何か重大な秘密がある、と思うのです」
実際、彼は何か秘密を抱えているわけだし、太は言いながら心の中でつぶやいた。
宗像「ふーん、別にそんなミステリアスなやつ、大学には一杯いる気がするけどな。まあいいや」
宗像はテーブルに置いていたリュックサックから愛用している手帳を取り出す。
宗像「ここに彼についてのメモがある」
太「何故メモを?」
宗像「それは思い出せん」
宗像は静かに首を横に振る。
宗像「俺が彼の私生活について知っていることといったらだな、独身らしいということと、割と山や海が好きらしいことくらいだ。ああ、後そうだ。重要なことが抜けていた」
太「それは?」
宗像「天野先生は一部の女子学生に好印象だ。ちくしょう、恨めしい」
太はガックリと頭をうなだれる。
太一「はあ、そうですか」
太は適当に頷きながら再び考えを巡らせる。
天野幸彦。週に2日、3日は車で通勤しており、お昼は大学の近くにある弁当屋をよく利用しているらしい。
その他出てくる情報も他愛のない情報ばかり。
太「誰か核心に迫るような情報を持っている人はいないものか(ブツブツ)」
宗像「おいおい、まるで探偵か、週刊誌の記者みたいだな。太、そんなに気になるんだったら本人に直接聞いてみたらどうだ」
太「そんなまさか。いきなり前に出てきて『貴方の素性を教えてください』なんてことを言うんですか? 僕が不審者扱いされてしまいます」
宗像「いいじゃないか、別に」
満面の笑み。
太「この、人事だと思って」
太(でも待てよ。これはアリ、かも)