「例えばベイカー街の探偵さんとか? それともここは日本だから明智小五郎?」
 坂上は背後を振り返る。そこには望月が立っていた。
「……あんたは」 
「御機嫌よう、坂上さん。また会ったわね」
「ああ、こんにちわ。さっきの質問だけどな、出来れば超自然現象を可能性の範疇に入れてくれる探偵はいないかね」
「超常現象だなんて、推理物でそれっていいのかしら? それじゃあ全ての根底が覆っちゃって面白くないだろうし、第一、そういう不可解な事件を物理的にありうる範囲で解決に導くのが推理の醍醐味ではなくて?」
「嬢ちゃん、最近はファンタジーものの推理小説なんてものもあるんだぜ。魔法なんかあっちゃ困るってことはない。起きうる超自然現象の範囲を予め定義でもしておけばいいんだ。そうすれば、魔法使いの探偵なんてのも成り立つと思うんだが」
「そう、そんな物もあるのね。でもそれってミステリーファンは納得するのかしら?」
「さあな。それはそれだ。受け入れられるかはともかく、一つの作品として成立し得る。それにな、タブーは打ち破るものだろう?」
「ふふ、警務にあたる者が言うことじゃないわね」
「いいんだよ、少しくらいいい加減の方が。真面目くさってやってても駄目になっちまう。それはそうと、何の用だ? わざわざ話しかけて来たってことは何かあるんだろう?」
「それはこちらのセリフよ。坂上さん。貴方、ここ数日間"私達"の周りをうろうろしていましたね」
「ふ、バレてたか。流石だ。あんたやっぱり只者じゃないな」
「何故私達のことを付け回すのかしら?」
 坂上は肩をすくめる。
「黙秘権を主張する、って言ったら?」
「それは困ったわね。ストーカーで通報するにしても立件不十分で終わりそうだし」
「だろうな。一般人にゃ尾行しているようには見えないからな」
「どこかでボロを出してくれないかしら」
「ないな。腐っても刑事だ。っていうか何であんた俺の素性知ってんだ」
「あの夜警察官と親しそうに話してたじゃない。少なくとも警察関係者だって可能性にすぐに行き着くわよ」
「ああ、ドジッたな。確かに」
「まあでもそうね。仕方ない、か」
「ん?」
 望月が何かを投げると、それに合わせるかのように坂上の側で鋭い風が通り抜けた。坂上は風の起きた方向を見下ろす。
 路上の石にメモ帳ほどの大きさの紙が突き立っていた。
「なんのつもりだ? 元々"そういうつもり"で来てたんだ。今更これくらいじゃ驚かねえよ」
「ええ、分かってたわよ。貴方が"そういうつもり"で来てたってこと。だからこれは警告」
「何の?」
「これ以上こちら側に足を踏み入れないことへの」
「何故だ? 俺がどうなろうとあんた達の知ったことじゃないだろう」
「いいえ困るわ。市民に被害が及ぶのは私達にも実害があるの。大体、無関係者を巻き込んだら寝覚めが悪いわ」
「俺は無関係者じゃない」
「あの車の件のこと? それこそ、貴方は関係はないんじゃない?」
「ああ、その件も気になるが、それだけじゃない」
「それじゃあ何かしら」

「例えばベイカー街の探偵さんとか? それともここは日本だから明智小五郎?」
 坂上は背後を振り返る。そこには望月が立っていた。
「……あんたは」 
「御機嫌よう、坂上さん。また会ったわね」
「ああ、こんにちわ。さっきの質問だけどな、出来れば超自然現象を可能性の範疇に入れてくれる探偵はいないかね」
「超常現象だなんて、推理物でそれっていいのかしら? それじゃあ全ての根底が覆っちゃって面白くないだろうし、第一、そういう不可解な事件を物理的にありうる範囲で解決に導くのが推理の醍醐味ではなくて?」
「嬢ちゃん、最近はファンタジーものの推理小説なんてものもあるんだぜ。魔法なんかあっちゃ困るってことはない。起きうる超自然現象の範囲を予め定義でもしておけばいいんだ。そうすれば、魔法使いの探偵なんてのも成り立つと思うんだが」
「そう、そんな物もあるのね。でもそれってミステリーファンは納得するのかしら?」
「さあな。それはそれだ。受け入れられるかはともかく、一つの作品として成立し得る。それにな、タブーは打ち破るものだろう?」
「ふふ、警務にあたる者が言うことじゃないわね」
「いいんだよ、少しくらいいい加減の方が。真面目くさってやってても駄目になっちまう。それはそうと、何の用だ? わざわざ話しかけて来たってことは何かあるんだろう?」
「それはこちらのセリフよ。坂上さん。貴方、ここ数日間"私達"の周りをうろうろしていましたね」
「ふ、バレてたか。流石だ。あんたやっぱり只者じゃないな」
「何故私達のことを付け回すのかしら?」
 坂上は肩をすくめる。
「黙秘権を主張する、って言ったら?」
「それは困ったわね。ストーカーで通報するにしても立件不十分で終わりそうだし」
「だろうな。一般人にゃ尾行しているようには見えないからな」
「どこかでボロを出してくれないかしら」
「ないな。腐っても刑事だ。っていうか何であんた俺の素性知ってんだ」
「あの夜警察官と親しそうに話してたじゃない。少なくとも警察関係者だって可能性にすぐに行き着くわよ」
「ああ、ドジッたな。確かに」
「まあでもそうね。仕方ない、か」
「ん?」
 望月が何かを投げると、それに合わせるかのように坂上の側で鋭い風が通り抜けた。坂上は風の起きた方向を見下ろす。
 路上の石にメモ帳ほどの大きさの紙が突き立っていた。
「なんのつもりだ? 元々"そういうつもり"で来てたんだ。今更これくらいじゃ驚かねえよ」
「ええ、分かってたわよ。貴方が"そういうつもり"で来てたってこと。だからこれは警告」
「何の?」
「これ以上こちら側に足を踏み入れないことへの」
「何故だ? 俺がどうなろうとあんた達の知ったことじゃないだろう」
「いいえ困るわ。市民に被害が及ぶのは私達にも実害があるの。大体、無関係者を巻き込んだら寝覚めが悪いわ」
「俺は無関係者じゃない」
「あの車の件のこと? それこそ、貴方は関係はないんじゃない?」
「ああ、その件も気になるが、それだけじゃない」
「それじゃあ何かしら」

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