望月は静かに生野の背中めがけて右手を突きつける。その手には、回転式拳銃(リボルバー)が握られていた。
「何と、この屋敷だったんです」
「何のつもりでしょうか?」
「先日、生野家のことを調べさせていただきました。インターネット上には断片的な情報しかございませんでしたが、流石は地元の名士といったところでしょうか、市史や県史には生野家と貴方のことがいくつも書かれていました」
 撃鉄を起こしながら望月は淡々と言った。
「ええ、大変な名誉に与り、私も先祖も鼻が高いというものです」
「ですが名家には曰くがつきもの。私はとある私設図書館で調べ物をしていたのですが、その中に奇妙な本を見つけました」
「ほほう。それは一体」
「『山間の王』という本。生野家の出自を調査したノンフィクションの本らしいのですが、書いている内容は中々荒唐無稽なものなのです」
「なるほど、それはいささかの興味がございますな。一体どういう内容なのでしょうか?」
「大まかに言いますと、その本はこう言っていますの。『江戸期に菅原の地へ忽然と現れ、今では地元財界の顔の一つとなった生野家の現当主、生野綱という人物だが、彼には秘密があった』」
「……その秘密とは?」
 生野は銃を突きつけてられるにも関わらず、声も震わせずに淡々とした調子で言った。
「『彼は、生野綱は人間ではない。では何なのかというと、答えは非常に簡単である。俗に言う妖怪だ。例えではない、文字通りの妖怪』」
 一瞬の沈黙が流れる。そして、生野の体が震え出し、顔を上に向けて大きく笑い声をあげた。
「は、はははは。それは傑作だ。久しぶりに大笑いしてしまった」
「そう、喜んでいただたようで何よりです。蛇足ですが、著者は貴方のことを"大江御前"などと呼んでいました」
「……ほう、それはそれはまた大層な名前だ。私には勿体無い。いやしかし御前などとは、女性への敬称ではなかったかな?」
「慣習的にはそうですが、稀に男性にも使われることはあったようですよ。ところで、その本に関連して、一つ質問したいことがありますの。よろしいかしら?」
「構いませんとも。何なりと」

 望月は静かに生野の背中めがけて右手を突きつける。その手には、回転式拳銃(リボルバー)が握られていた。
「何と、この屋敷だったんです」
「何のつもりでしょうか?」
「先日、生野家のことを調べさせていただきました。インターネット上には断片的な情報しかございませんでしたが、流石は地元の名士といったところでしょうか、市史や県史には生野家と貴方のことがいくつも書かれていました」
 撃鉄を起こしながら望月は淡々と言った。
「ええ、大変な名誉に与り、私も先祖も鼻が高いというものです」
「ですが名家には曰くがつきもの。私はとある私設図書館で調べ物をしていたのですが、その中に奇妙な本を見つけました」
「ほほう。それは一体」
「『山間の王』という本。生野家の出自を調査したノンフィクションの本らしいのですが、書いている内容は中々荒唐無稽なものなのです」
「なるほど、それはいささかの興味がございますな。一体どういう内容なのでしょうか?」
「大まかに言いますと、その本はこう言っていますの。『江戸期に菅原の地へ忽然と現れ、今では地元財界の顔の一つとなった生野家の現当主、生野綱という人物だが、彼には秘密があった』」
「……その秘密とは?」
 生野は銃を突きつけてられるにも関わらず、声も震わせずに淡々とした調子で言った。
「『彼は、生野綱は人間ではない。では何なのかというと、答えは非常に簡単である。俗に言う妖怪だ。例えではない、文字通りの妖怪』」
 一瞬の沈黙が流れる。そして、生野の体が震え出し、顔を上に向けて大きく笑い声をあげた。
「は、はははは。それは傑作だ。久しぶりに大笑いしてしまった」
「そう、喜んでいただたようで何よりです。蛇足ですが、著者は貴方のことを"大江御前"などと呼んでいました」
「……ほう、それはそれはまた大層な名前だ。私には勿体無い。いやしかし御前などとは、女性への敬称ではなかったかな?」
「慣習的にはそうですが、稀に男性にも使われることはあったようですよ。ところで、その本に関連して、一つ質問したいことがありますの。よろしいかしら?」
「構いませんとも。何なりと」

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