「いてて、ここは」
 太はゆっくりと身を起こして辺りを見回す。太がいるのはどうやら見慣れない建物の中のようで、灯篭に照らされたそこはまるで寝殿造の神社である。暗がりなのも関係してなのか、その空間の外は異様な雰囲気に包まれており、まるで異界のようであった。
「ああ、はじめ。よかった、目覚めたのね」
 少女の声が聞こえたので、太は声のした方向を向く。
「君は、たまき」
 太の前に姿を表したのはたまきであった。彼女は優しい眼差しを太に向ける。
「ここは?」
「ここ? 菅原市の近くの建物よ。もっとも、外からは見えないけれど」
「僕は確か君と神社で会って――」
 太はハッとする。そうだ、あの時、たまきは何と言っていたか。
「そうだ。まだ話は終わってない。たまき、君は一体誰なんだ?」
 束の間の沈黙が流れた後、たまきは口を開いた。
「そうね、貴方には話しておかないと。これはとっても昔、まだ神代と呼ばれていた頃の話」
「神代」
 多分、百年や二百年そこらの話ではないのだろう。太は自分の置かれた状況など脇に置いてしまって、その話を早く聞きたいと感じている自分がいることに気が付いた。
「かつて、とある民に少女がいた。その子は首長の娘でこそあったけど、皆と同じように野を駆けまわり、お友達と遊んで、少しだけ淡い恋もした。大変だったけど、多分幸せだったと思うの。だからいつも思ってたみたいね、ああ、こんな日々がいつまでも続けばいいって。でも、そんな日常は長くは続かなかった」
 たまきは目を伏せて、優しい笑みは憂いを帯びた表情へと変わった。

「いてて、ここは」
 太はゆっくりと身を起こして辺りを見回す。太がいるのはどうやら見慣れない建物の中のようで、灯篭に照らされたそこはまるで寝殿造の神社である。暗がりなのも関係してなのか、その空間の外は異様な雰囲気に包まれており、まるで異界のようであった。
「ああ、はじめ。よかった、目覚めたのね」
 少女の声が聞こえたので、太は声のした方向を向く。
「君は、たまき」
 太の前に姿を表したのはたまきであった。彼女は優しい眼差しを太に向ける。
「ここは?」
「ここ? 菅原市の近くの建物よ。もっとも、外からは見えないけれど」
「僕は確か君と神社で会って――」
 太はハッとする。そうだ、あの時、たまきは何と言っていたか。
「そうだ。まだ話は終わってない。たまき、君は一体誰なんだ?」
 束の間の沈黙が流れた後、たまきは口を開いた。
「そうね、貴方には話しておかないと。これはとっても昔、まだ神代と呼ばれていた頃の話」
「神代」
 多分、百年や二百年そこらの話ではないのだろう。太は自分の置かれた状況など脇に置いてしまって、その話を早く聞きたいと感じている自分がいることに気が付いた。
「かつて、とある民に少女がいた。その子は首長の娘でこそあったけど、皆と同じように野を駆けまわり、お友達と遊んで、少しだけ淡い恋もした。大変だったけど、多分幸せだったと思うの。だからいつも思ってたみたいね、ああ、こんな日々がいつまでも続けばいいって。でも、そんな日常は長くは続かなかった」
 たまきは目を伏せて、優しい笑みは憂いを帯びた表情へと変わった。

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