ロストミソロジー 九章:かむひの日の神

 夜が明けて、日向が北宮神社を訪れた。既にそこに結界は張られていない、何故なら結界を張って守るべきものがそこからいなくなったからだ。
 客間に通された日向は、太から渡されたお茶を口へと運ぶ。
「ありがとう。美味しいよ、太君」
「あ、いえ、どうも」
 唐突に礼を言われ、太は目を逸らす。前はすれ違っただけであったが、今回はまじまじと日向を見ることになった。
 日向は男の太から見ても魅力的な男性であると思った。爽やかで清潔感を感じる淡い黒髪、端正な顔、体つきに安心感を感じさせる声音。まるで日本男児というものを体現したかのような佇まい。もし仮に自分が女であったとしたら、間違いなく惚れていたであろうと太は思った。
「日向さん、申し訳ないですが、無垢な男の子を口説きに来るのは次の機会にしていただけないかしら」
「はい?」
 日向は首を傾げる。望月は彼女の言葉の意味を理解していないらしい日向の様子に呆気に取られた。
「いえ、何でもありません。それより、そろそろさやについて教えていただけないかしら」
「はい。その約束でしたね」
 日向はそう言って柔和な顔をしたかと思うと、すぐにキリとした顔になった。
「少し話は長くなりますが、よろしいでしょうか?」
「ええ」