神祓い 三章:神贄

 望月は懐から銃を出す。そして、宮子の胸にその銃口を向けた。
「はん。そんな粗末な舶来品でどうしようというんだ」
「只の舶来品じゃないわよ。貴方達みたいな子のために特別に作られているの。ああ、安心しなさい。弾は入ってないから、打った所でその子に傷一つ付かないわ」
 それが詭弁でないことを宮子は悟り、黙り込む。
「最後にもう一度聞くけど、大人しく私に降参してくれないかしら? 別に今までと大して変わらないわよ。ただし、その神贄なんていう野蛮なことはやめてもらうことになるけど」
「……なよ」
「え」
「巫山戯るなよ。何故神が人の指図を受けねばならない」
「そう、じゃあこれまでね。貴方はもうここにはいられない」
「くっ、貴様ら、そうやっていくつもの民も神も征服してきたのだろう。そうして自分たちの物語の中に取り込み、我らを貶める」
「今更それは負け惜しみよ。それに、私は一介の客士でしかないのだけど」
「ふん、とぼけおって」
 宮子は歯ぎしりをする。が、望月をじっと見つめていた彼女は突如何かを悟ったように目を見開いた後、その頬を緩ませた。
「く、ふふふふ」
「あら、気が変わった?」
「いやまさか。やっと思い出したのだ」
「へえ、一体何を」
「貴様、只の巫にしては不自然だと思っていたが、そうかそういうことか。滑稽だな、貴様追放でもされたのか、裏切りか、それとも何か他の事情でいられなくなったのか、あるいは……おい、なんとか言ったらどうだね、やほへの――」
 衝撃音が響いた。それから宮子が静かに倒れる。
「後からいくらでも恨み言は聞いてあげるわよ。でも今はもう夜も更けるから、ね」
 望月は宮子の胸に手を翳す。すると、その場所が光を放ちやがて消えてしまった。
 望月の手には勾玉が握られていた。