異界手帖 二章:依頼

「というわけなので、これから大鯰とやらの調査を開始します」
 社務所の一室にて天野、弓納、太の三人に向かって望月は宣言した。
「大鯰、ねえ」
「……何か不満そうね、天野君」
「いやなあ。見た感じいつも通りの依頼とお見受けするんだが、誰かが一人やればそれで事足りるんじゃないかね。なあ弓納、お前はどう思う」
 天野に促されて、弓納は少し考え込む。
「そうですね。ですが、最近頻発している怪事件との関連も気になります」
「たまたまじゃないのか? たまたまお出かけの日が雨だったのを強く記憶していて、やれ自分は雨男だ、やれ自分は雨女だ、なんて言っているのと同じくらいのこじつけを感じるんだがな、俺は」
「天野君。確かに貴方の意見は一理あるわ。でも私の所感だけど、これは大物が釣れそうな予感がするの」
「大鯰だけにー、おっと、いや何でもない聞き流してくれ」
 望月は半目で天野を見るが、天野は素知らぬふりをする。
「……それで、念のためなんだけど、これからはなるべく二人で行動するようにしたいわね。特に太君」
「はい?」
「貴方を一人にはしないようにしたい。なので、今回は小梅ちゃんと行動してもらうことにします。それで大丈夫、小梅ちゃん?」
「大丈夫です。問題ありません。テストも終わりましたので」
「ちなみに弓納にしたのは理由があるのか?」
「あまりさしたる理由はないわ。そして所憚らずに言うと勘よ。それでもあえて言うなら、小梅ちゃんならいざという時に太君を抱えて走るくらいなんてことないから、ね」
「そうか。で、そうなるなら俺は望月とか」
「そうなるわね。とりあえずなのだけど」
 望月はクリアファイルにまとめた資料を三人に渡す。
「大まかな方針と情報をまとめたので、目を通しておいて頂戴」