ロストミソロジー 一章:白い髪の少女

「以上が、経緯です」
 広間のテーブルの前で太はふう、と軽く息を整えた。広間の中には太の他、その真向かいに望月、テーブル端に天野、そして太の隣にさやが座っていた。さやは、所在なげにキョロキョロしている。
「それで、このまま太くん家で預かるわけにはいかないからと、ここに来たわけね」
 望月は言った。
「はい。見ての通り僕は男で、さやは女の子です。さやにとっては何かと不都合でしょうし、それだったら、望月さんに預かってもらった方がいいのかなと思いここまで連れてきました」
「なるほどねえ、そういうことなら分かったわ」
「おい、望月。いいのか」
「何が?」
「そんな安請け合いしてしまって、ここは神社で、おまけに客士院だぞ」
 客士院、というのは北宮神社に置かれている組織である。
 この世界には異界の住人が潜んでいる。科学が発達し、明かりの消えなくなった現代でこそ数は減ったものの、そうした人ならざる者によって起こされる事件や怪異、通称"異界騒ぎ"がしばしば巷を騒がせていた。客士院、というのはそうした不可解な出来事に対処するために設けられた組織であり、望月や天野、太はその一員である客士と呼ばれる存在であった。
「そんなことは分かってるわよ。じゃあ天野君、行く宛のない女の子を街中にほっぽり出すのかしら」
「いや、そんなつもりはないが」
 天野はチラとさやを見ると、不安そうな面持ちでこちらのやり取りを見ている。
「まだ、納得いかない? じゃあちょっと耳貸して」
 望月は天野にゴニョゴニョと耳元で何かを伝えた。それを聞いていた天野は、やれやれとばかりに頷いた。
「ああ、分かったよ。だが、余計なことに巻き込まないよう気を付けろよ」
「もちろんよ。とりあえず、小梅ちゃんにも事情を話さないといけないけど、まあ、それは彼女が来てからでいいでしょう」
「あの」
 望月が振り返ると、太が少し心配そうにテーブル向かいの望月の方に身を乗り出していた。
「さやはここで預かってもらっても大丈夫なのでしょうか」
「ええ、大丈夫よ。お姉さんに任せなさい」
「そっか、よかったね、さや」
 太はさやの方を向くと、さやは少し緊張した面持ちで「うん」とだけ答えた。