神祓い 二章:異変

 神社の辺りの方は人がまばらに集まっているようだったので、迂回して湖へと続く別の山道を登っていった。
「望月さん、一体どうしてるのかな」
 携帯で連絡を取ってみたものの、電源を切っているのか、返ってきたのは機会音声による味気ないアナウンスだけ。
「まさか捕まっているわけじゃないだろうけど」
 山道の坂を駆け上がっていく内に少しずつ息が切れてきたので、太は走るペースを弱めることにした。
「はあ、目的地に着いたらとにかく休憩だ。それからどうするか考えよう」
 ほっと一息ついて、何の気なしに山道から外れた脇の茂みを見やった。生い茂った草木の隙間は深い暗闇に包まれていて、中身を窺い知ろうとすればたちまちに呑み込まれてしまいそうな恐ろしさがあったが、それに相反するかのように所々から虫の心地よい音が聞こえてくる。
 そうして耳を澄ませながら、茂みをぼんやりと眺めていた太一は息を呑んだ。
 見やった場所から一瞬誰かの視線を感じたのである。しかし暗闇の中を目で凝視してみたものの、人影らしきものは特に見当たらなかった。
(流石に気のせいか。あんな所に人がいるわけがない)
 太は茂みの方へ意識を集中することをやめ、再び歩き出そうとした。
(もうちょっとの辛抱だ。頑張れ)
 不意に、太の視界は大きく揺れ、そして為す術もなくその場に倒れ込んでしまう。
 体を動かそうとしても言うことをきかない。
「からだ、が」
「悪いな、坊主」
 薄れゆく意識の中で誰かが呟く声が聞こえた。

―― 神祓い 第二章 終わり