鬼姫奇譚 二章:考本

「うーん」
 日夏と話をした翌日の教室。弓納は休憩時間に日夏から聞いた話を反芻していた。
「色々痕跡を調べてたんだけど、とりあえずこの学校にいるということは分かったの。でも、そこからずっと停滞中」日夏は途方に暮れているようだった。
 私は探偵みたいなこと出来ないしなー、頼まれた弓納もまた途方に暮れていた。
「弓納さん、どうしたの?」
「芥川さん」
 隣の席の芥川が心配そうに話しかける。
「いえ、とある人からちょっと頼まれごとをされただけ」
「とある人?」
「ごめんね、ちょっとナイーブなことだからこれ以上は言えない」
「そっか。でも困ったらいつでも言ってね。私、こう見えても口は堅い方だから」
「ありがとう、芥川さん」
「いいのよ。困った時はお互い様。じゃあね、また後で」
 そう言って芥川は軽やかに教室から出ていってしまった。
「芥川さん、最近特に忙しそうね」
 購買部に食べ物を買いに行っていた寺山がいつの間にか戻って来ていた。手に紙パックのレモンティーとパスタの弁当を持っている。
「ふふふ、女子っぽいでしょー」
 それを聞いて弓納はおかしそうに笑う。
「女子っぽいも何も女子じゃない」
「いやいや弓納君、それが違うんだよ」
 寺山は急に声音を変えて得意気に言った。
「ど、どうしたの突然」
「人は生まれながらにして人ならず。教育によって人となるのだ。同じように、女子は生まれながらにして女子ではないのです。女子であろうと日々励むこと、それが女子を女子たらしめるのだ」
 困惑する弓納をよそに寺山は雄弁に語る。
「多分似たようなことをどこかの偉人も言ってた気がする。と、それはそうと、さっき購買に向かう途中さ、騒ぎがあったんだ」
「騒ぎ?」
「私もよく見てはいないのだけど、ミステリーサークルみたいな、魔法陣みたいなものが学校の校庭に出てきたんだって。まあでも、不思議なことにこの高校じゃこういうのってたまにあることだから皆あまり驚きがないのだけどね」
「はあ。悪戯――」
 弓納は途中まで呟いてハッとした。
「ねえそれって、校庭にあるんだよね」
「うん。どうしたの? 気になる?」
「え、ああ、まあ」
「ほほう。弓納ちゃん、意外とミーハーな所があるんだね。でも今は難しいかも。人多かったし」
「そうなんだ……」
「まあまあ、落ち込むことないじゃない。放課後に見に行けばいいのよ。残ってればだけど」
 はははは、と寺山は快活に笑った。