プロローグ 第五章:窮追

?「ここで何をしているんだい」
太「あっ!?」
背後から声をかけてきたのは天野。いつの間にか回り込まれていた。
天野「よく見ると、君はこないだの太君じゃないか。大学から尾けてきてたから、ずっと気になってたんだ。一体なんのつもりなんだ」
万事休す。こうなったら仕方ない、正攻法だ。太は 天野を真っ直ぐに見つめ、堂々と話し始めた。
太「先生。ずっと後ろを付いてきていた非礼はお詫びいたします。ですが、どうしても気になることがありましてこうして尾行させていただいた次第です」
天野「なんなんだ。急に改まって」
太「先生は一体、何者なのでしょうか?」
天野「何者って、それは先日言ったように大学で講師を―」
太「それだけではない筈です。大体、只の講師ならあんなことはしませんよ。陳腐な推測ですが、何か裏家業でもやっているのではないですか?」
それを聞いて天野は可笑しそうな顔をして笑う。
天野「ふ、はははは。君の目には俺がそんなカッコよく見えていたのかな? 残念だが、俺のあれは只の趣味のようなものだよ。なんとなく生まれつき不思議な力があったから、あの手の類を成敗しているというわけだ。只それだけだ」
太「本当に、それだけですか」
天野「ああ。君は話を膨らませて物語にするのが得意だからそう考えるのかもしれないが、そうそう出来た話などあるものじゃあないよ。実際に俺の周りに起きる話は話のタネにもならないとりとめのないものばかりだ。きっと君もその内つまらなくなるよ」
太「そんなことはないですよ」
天野「そんなこともあるさ。世の中そういうものだよ、文士君」
太「そうですか。でしたら、一緒に付いて行っても問題ないですよね」
天野「はあ? き、君は何を言っているんだ」
太「いいじゃないですか少しくらい。どうせつまらないことなんでしょう? ならわざわざ秘密にするようなこともないんじゃないでしょうか。それとも、何かお見せ出来ないような秘密でも?」
天野「悪いことは言わないから、やめておきなさい。君が知ろうとしていることはこれからの人生になんの役にも立たないし、知ったところでロクな目にも遭わない。……っておい、太君?」
太「あれから考えていたんです。貴方の見ている世界は果たしてどのようなものなのかを。気になって仕方がない。別に、その世界がつまらないものであるならそれで構わないんです。きっぱり諦めもつきますし」
淀みのない瞳を向けられ、天野は諦めたようにため息をつく。
天野「ふうむ、何故そう知りたがるのかね。普通はこれくらい言えば少しは躊躇するものだ」
太「そんなの、人より好奇心が少し強いだけです」
天野「好奇心が強い? それだけ? 馬鹿な」
太「馬鹿でもなんでもありませんよ。何かを強く追い求めるのに、理由は絶対必要なのでしょうか?」
天野「はあ、やれやれ」
天野は諦めたというように降参のポーズをとる。
君を諦めさせる方法が全くもって思いつかん。もう勝手にしてくれ」
太「ありがとうございます! それでは、勝手にさせていただきます」
天野「こっちだ。付いてきなさい」
太「案内してくれるんですか?」
天野「ほっといても付いてくるのだろう。なら案内しようがしまいが同じことだ」
太「えへへ。確かにそうですね。では、よろしくお願いします!」